大国インドが目を覚ます。日本人はグローバル社会でどう生き残るか?
昨今、インドの人口は爆発的な成長を続け、2027年にはインド人の数は中国を追い越し世界1位となります。
爆発的な成長を続けるインド人の中間層は、スマホを所持し世界の叡智に辿り着くようになり、その圧倒的な数がグローバル社会のマーケットへ流れ込みます。
グローバル社会の人材マーケットにおいて、これからは「日本人だから」というだけでは全く優位性が無くなる時代に突入すると思います。
今回の記事では、私がインドで体験した現実と、それを踏まえた日本人の今後のグローバルマーケットでの生き残り方について、私の考えをご紹介します。
1. インドで受けた衝撃
南インド・バンガロールにて
インドで衝撃を受けました。
私がインド・バンガロールに営業担当として派遣され、南インドでのプロジェクトを担当していた時の話です。
その際のプロジェクトメンバーの一人は、インド現地社員の40歳を目前に控えたアリさん(仮名)という男性でした。なんと驚くことに、彼の年収は当時25歳で入社2年目の私の半分程度でした。
アリさんは業界暦15年程のベテランで、ITサービスの技術営業担当としてかなりの経験を持っていました。
一方、私は社会人歴2年目で、戦力というにはまだまだ経験が乏しかったです。しかも、駐在という身分で派遣されているため、本社からの家賃補助や専門ドライバーのサポート等を受けていました。
それらを含めると、グローバルなマーケットにおける費用対効果的に、私の給料のマーケット価格は明らかに割高であり、一方アリさんはかなりの割安だったと言えます。
スキルではなく、人種によって賃金に格差がある。
この時、世界がもしこの不条理な事実に気付いてしまったら、グローバルなビジネス社会に自分の居場所はあるのだろうか?と、とてつもない不安に襲われたことを覚えています。
私のインド生活の1年間で、この恐れを身を以て味わえたことが一番の良い経験だったと言えます。
バンガロールという街に関しては以下の記事をチェック!
2. グローバルな人材市場で起こる奇妙な矛盾
給与の低いインド人
直近のインドの大卒の初任給は、日本円に換算すると約4万2,000円だといいます。これは、日本と大卒の初任給と比べると、5分の1から4分の1程度ですが、何故このようにインド人と日本人で賃金に格差が出るのでしょうか?
これに対する一般的な答えとしては、「国の経済力の差がその国で働いている労働者の賃金の差としてそのまま反映されている」、ということになります。
つまり、特定の人の労働賃金を決定するにあたり、「個々の能力」よりも強い影響力を持つのが「国の経済力」という個人では到底影響の及ぼしようも無い外部的要因であり、それにより個人の賃金は勝手に決定されてしまうのです。
勿論、「金融」や「コンサル業」など、業界によっては他者より比較的高額な賃金を期待出来ることもあるだろうし、中国の巨大IT企業であるHuaweiのように、新卒から能力に応じて高額な給与を約束する場合もあります。
しかし、各国における平均給与を見てみると、マクロで言えば国の経済力に比例してその国の平均給与も決まるのが一般的と言えます。
でもこれは、とてもおかしな事実ではないでしょうか?
自分の人材価値の低さがバレる恐怖
冒頭で述べた私の実例のように、同じプロジェクトに参画しているのにも関わらず、生産性の高い人間より生産性の低い人間に多額の報酬を渡すことが、世界では現実に起こっているのです。
それも、日本人駐在員・インド人現地採用という人種や雇用形態の差だけでそれを作っているのです。
この世界の奇妙な矛盾は、インドという日本を離れたグローバルな舞台だからこそ、私が身を以て経験が出来たことであり、日本国内という閉ざされた環境であれば、この世界の矛盾に気付かないまま(あるいは気付いても問題視しないまま)過ごしてしまっていたのかもしれません。
もしも「先進国日本」という巨大な後ろ盾が無くなり、この奇妙な矛盾が解消されて人材マーケットが最適化され時に、果たしてどれだけ多くの日本人がグローバルなマーケットで今と同じ地位を維持出来るのでしょうか?
これを考えると恐怖を感じるのは私だけでは無いと思います。
3. インド人材の移り変わり
ところで、皆さんはインド人についてどのようなイメージを持っているでしょうか?
私が当時インドに派遣される前のインド人のイメージは、ターバンを巻いてヒゲをはやしたイメージしか持ち合わせていませんでしたが、実際にインド人と関わるうちにそのポテンシャルの高さに気付いてきました。
インド人材はこれまで時代の潮流に合わせて変化をしてきました。ここでは、インド人材がどのように変化を遂げてきたのかを簡単に振り返っていきます。
① ビジネス・プロセス・アウトソース(BPO)の時代(1990年代〜2010年代前半)
インド人材はその安い賃金が逆に強みとなり、ビジネスを請け負い成長してきました。
インドはかつてイギリスの植民地だったこともあり、英語を話せる人間が多くいます。
インド国内では20を超える複数の方言が存在しており、出身地によっては母国語での会話が成立せず(どこでもヒンディー語が通じると思ったら大間違いである!)、インド人同士でさえ英語が共通の言語として使われることも多いです。
勿論、教育のレベルによって言語能力には差がありますが、英語力や安価な労働力といった人的リソースの優位性と、また欧米との時差による地理的優位性を活かし、欧米企業からの委託先としてコールセンターなどの業務を請け負ってきました。
このような委託業務のことを「ビジネス・プロセス・アウトソース(略してBPO)」と呼びます。
インドは、特にその安い人件費を活かし、BPOのビジネスを大きく取り込むことでグローバル社会においてその地位を構築して行きました。
② ITソリューションの時代(2000年代後半ー2010年代)
上で述べたように、インド人材はグローバルマーケットにおいてBPOでその名を轟かせてきましたが、それはあくまでも安い人件費と豊富な人材(人口の多さ)に焦点の当たったものでした。
しかし、やがてIIT (Indian Institutes of Technology) (http://www.iitd.ac.in/)と呼ばれるインド版のマサチューセッツ工科大学のような、非常に高いレベルのIT教育を課す大学が増える事により、多くのITスキルを持った人材が排出されるようになりました。
それらの人材がマーケットに排出されることにより、Infosys社やWipro社、またTech Mahindra社といった、かつてのBPO企業をグローバルベースでITを請け負う巨大な企業へと成長させて行きました。
また、企業だけでなく個人としてもアメリカのシリコンバレーに渡り、IT系スタートアップで経験を積み、数年後に知識・経験を手土産にインドへ帰国するといった逆輸入が今でも盛んに行われています。
ITという切り口を見れば、まさに人材がインドの国の経済成長を支えて行ったということが分かります。
③ ナレッジ・プロセス・アウトソース(KPO)の時代(最近の動向)
そして昨今のインド人材は、持ち前のITスキルに特化するばかりでなく、そのビジネス経験や高度な専門知識を活かし、経営の重要な意思決定を担う人材が増えてきていています。
かつては単純作業のBPOで立ち位置を確立したインド人材は、重要な意思決定を請け負う業務であるナレッジ・プロセス・アウトソース(略してKPO)という業態で注目を集めるようになりました。また、そのマーケットは着実に成長してきています(http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2008/2008aut09.pdf)
更に、宗教や言語など異なった価値観の人々が入り乱れる文化で育ったインド人材は、グローバルの多国籍企業でも輝かしい活躍を遂げています。
Google社の社長であるサンダー・ピチャイ氏(チェンナイ出身)や、Microsoft社のCEOであるサティア・ナデラ氏(ハイデラバード出身)、ソフトバンク社の元副社長を努め、現在パロアルト社のCEOであるニケシュ・アローラ氏(ガーズィヤーバード出身)など、名だたるグローバル企業のトップをインド人材が占めています。
日本人がこのようなトップ企業の代表を努めている姿を想像出来るだろうか?
このように、特にITという分野においてインド人材は時代の潮流に合わせて大きな変化を遂げてきました。
彼らは学歴や多様な環境への適合性があるばかりでなく、インド人の人脈を活かしたネットワークを活用し、グローバルで網を張るようにその勢力を拡大してきました。
これを中国人で言うところの華僑ネットワークになぞり、「印僑ネットワーク」と呼ぶ人もいます。
4. 大国インドが目を覚まし、世界のマーケットを襲う日
グローバル社会、インターネットの普及がビジネスの世界にバランスをもたらします。インターネットやSNSの発達により、世界は既に人材マーケットにおける賃金の格差という大きな矛盾に気付き始め、能力の無い物はやがて淘汰される時代になると思います。
高度な教育を受けた一部のインド人だけでなく、格安SIMとスマホを手にした学歴の無い低所得なインド人達が知識を身につけ、自らが情報を発信し、グローバルに進出する時代が始まりました。
つまり、個人のKPO化が始まったのです。
かつて眠れる獅子と揶揄された中国は既にその存在を世界に知らしめ、現在は経済的には成熟期に入ったようにも見受けられますが、インドはかつての中国のように、経済的に爆発的な成長を見せています。
これから目を覚ます獅子はインドであり、13億人もの人々が今立ち上がろうとしているのです。
5. 日本人のこれからの生き残り方
これまでインド人材について、グローバルなマーケットにおける矛盾という切り口で話してきました。
私を含め、日本人それぞれが「名刺を剥奪されマーケットに身体一つで投げ出された時に、自分のことをどう紹介出来るか?自分は生き残れるのか?」を問うべきだと思います。
終身雇用が約束され、ある程度の給与が見込めた時代はとうの昔に終わり、これからは個々の力での生き残りをかけた戦いがグローバルで展開されます。
実は私も日本のサラリーマンであり、日本の会社で時代遅れの作業の一部を担っています。
そうこうしている間に、世界の不合理な歪みはインターネットとグローバル化によって着実に矯正され、気付いた頃には眠れる獅子は我々(日本人)のすぐ後ろにまで迫ります。
インドを初めとした世界の優秀な人達に、日本人が職を奪われる時代に突入するのです。
しかし、悲観的になることは無いと思います。これを機に、環境にとらわれずグローバルで活躍出来る人材を目指すべく、その方法を考えましょう。
今すべきアクションについて、私なりの考えを下記の通り述べさせて頂きます。
① 自分を際立たせる力を2つ以上身につける
自分を際立たせる力を2つ以上身につけることの利点について堀江貴文氏も著書で述べています。
人は1つ周りより秀でた能力やスキルがあってもそこそこ出来る人程度の評価に留まりますが、2つ抜けた力があれば相乗効果を生み、個をユニークな存在へと変えて際立ちます。
例えば、世界のイチローは攻走守に優れているだけでなく、毎日繰り返す特有のプリンシプルをお手本とされています。イチロー選手は二つどことか多くのスキルを同時に持っていますね。
日本トップYouTuberのヒカキンは面白い言動に子供たちから人気があるだけでなく、動画の企画力・編集力にも定評があります。
タレントの橋本環奈さんは見た目が可愛いだけでなく、演技力やバラエティ番組の適合力も評価されています。また、私のインドの同僚であるアリさんは、クラウドの知識が有るだけでなく英語でそれをプリセールス出来ます。
以上のように、世の中で活躍している人を見てみると、少なくとも2つ以上の秀でた能力を持っていることが分かります。
それは、2つ以上の能力を身につける事によって、替えのきかないユニークな立ち位置を確立出来るからです。
よって、ビジネスの世界でも自分が際立つ能力を最低2つ身につけられるように努力しましょう。
グローバルで活躍するという意味でのオススメは、語学力(英語力は最低限ですが)と何か他の専門的スキルです。
このことについては、以下の動画でも解説しているので、ぜひチェックしてみてください!
② 世界の潮流を捉える
私がインドで感じた衝撃は、自分のそれからの行動を変え、グローバルで生き残る為に準備を始めるようになりました。
また、学生時代に繰り返した海外旅行で新しい発見をして、私が過去にアメリカの退学へ進学することを決意したこともありました。
私の過去の経験では、世界を見る事により世の中の流れを汲み取り、乗り遅れないように自分の行動を変えてきたと思っています。(これらのことについては機会があれば別記事で書こうと思います)
チャンスが有れば海外に出る事をお勧めします。
それは海外に住む事だけを意味するのではなく、例えば海外に関わる仕事に積極的に参加したり、仕事で関わるのが難しければ海外旅行に行く事や海外のニュースを見ることでも勉強になります。
常に世界で何が起きているかにアンテナをはり、世界の潮流に合わせて自分の行動を変化・適応させて、それに乗り遅れないようにすることが大事だと思います。
おわりに
インターネットの普及により、SNSで個人が世界へ発信出来る時代になりました。これにより、人は個々の能力を対外的にアピールする武器が出来ました。
これまではマスメディアからの一方的な情報伝達や、企業や組織の権威により、個に価値が無くても見えないベールに包まれて守られてきました。これからはインターネットやグローバル化により、誰もが学び、誰もが発信する時代です。
インターネットやグローバル化が世界の虚偽をあぶり出し、最適化する。偽りの無い個の力がグローバルベースで試され、比較され、アリさんのような本物だけが生き残って行けるような社会になると思います。この潮流に飲み込まれないように、個々が考えて行動し、備えるべきです。
P.S.
これまであえて触れてきませんでしたが、日本人にはインド人より優れた日本人ならではの良さも確実にあります。それは一言で言えば「おもてなし」という言葉に代表される繊細さだと思っています。その話は別の機会に書ければと思います。